IDEA
「座っていい」をまちに増やす
Writer:Yuko Shibata
としまベンチプロジェクトに見る
小さな外出支援
高齢者の外出支援というと、送迎サービスやバリアフリー改修のような大きな仕組みを思い浮かべるかもしれません。けれど、日々の外出を支えているのは、もっと小さな環境の積み重ねだったりします。
たとえば、途中で座れる場所があることです。
写真は、日本福祉教育専門学校の敷地内に設置されている、道路に面したベンチです。日中は影になり、歩いてきた人が少し腰を下ろすのにちょうどいい場所に置かれています。こうした「ちょっと休める場所」があるだけで、まちの歩きやすさは少し変わります。
東京都豊島区では、令和5年度から、区民が区に実現してほしい事業を提案できる「区民による事業提案制度」が始まりました。区民の声を予算づくりに反映し、区政への参加を広げることを目的とした制度です。
「としまベンチプロジェクト」は、その提案から生まれた取り組みのひとつです。高齢者などが住み慣れた地域で安心して外出・移動できるよう、まちなかに誰でも座れるベンチを増やしていくことを目指しています。
特徴的なのは、行政が一方的にベンチを整備するのではなく、地域の人やお店、事業者などが、自分たちの場所にベンチを提供することで成り立っている点です。令和8年1月現在、民間によって設置されたベンチは73か所に広がっています。
まちなかには、座れそうな場所があっても、「ここに座っていいのかな」と迷う場面があります。私有地の前、建物の軒先、施設の外構。座れる形をしていても、誰でも使ってよい場所なのかどうかは、案外わかりにくいものです。
このプロジェクトでは、“誰でも座っていい”ということをステッカーによって可視化しています。小さな表示ですが、利用する人の迷いや遠慮をほどく、利用者目線の工夫だと言えます。
ベンチがあることで生まれる「ここまで歩けば休める」という安心感は、買い物や通院、散歩といった日々の外出を後押しします。人が座れば、まちに滞在が生まれ、挨拶やゆるやかな見守りにもつながっていきます。
ベンチを提供する人も、そこに座る人も、まちの風景を少しずつ変えていく当事者になります。専門的な知識や大きな予算がなくても、自分の場所の一角を少しだけひらくことで、誰かの外出を支えることができる。
まちの中に「座っていい場所」があること。
それは、外出を支える小さな介護予防インフラであり、誰もが参加できるまちづくりの入り口なのかもしれません。
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