IDEA
【後編】ことととぶき公開編集会議 第1回目
Lead Editor:Mitsuhiro Sakakibara Editor: Yuko Shibata

前回の記事では、編集長である榊原充大さんと「ことととぶき」発刊者兼編集者である柴田木綿子が、「これまでのことととぶき」ついて話し合いました。後編は、「これからのことととぶき」について語り合います。
この記事は『【前編】ことととぶき公開編集会議 第1回目』と合わせてお読みください。【前編】ことととぶき公開編集会議 第1回目
編集長のお気に入りの記事3選
榊原:僕も関係者だから手前味噌になっちゃうし、どの記事も納得してから公開しているけど、これから読んでもらう人のためにも「これは特にいいぞ」というのを紹介したい。
まず一つ目は、やっぱり「GOOOOOOOD STATION」の企画かな。あれはすごく面白かった。インタビュー自体も面白かったんだけど、やっぱり「発見がある」っていうのが大きかったな。

記事34:無人駅に作られた、地域の拠点カフェ——長崎県長与駅内「GOOOOOOOD STATION」
たとえば、「ああ、こういう課題を逆手に取って、こんな風に取り組みに変えてるんだ」っていう気づきがあるというか。それに出てくる登場人物の中に、障害のある人とか高齢者が含まれていて、でもそれを単に「高齢者介護」としてだけ焦点化するんじゃなくて、社会的な課題をどう組み合わせて解いていくか、という視点で語られていたのが印象的だった。
その掛け合わせ方がすごく見事で、個人的には、そういうところをちゃんとピックアップした柴田さんの視点と、それを丁寧に文章に落とし込んだ書き方が、すごくよかったなと思った。
そうそう、それに加えて「カフェがある駅舎が無人駅になる」っていう、また別の課題もあって、そういった複数の問題を、うまく一石三鳥みたいな形で解決しているところが素晴らしい。
ただ、こういうプロジェクトって、継続的に追いかけてみたときに、果たしてどんな風に見えてくるのか、そこはやっぱり気になる。だからこそ、ちょっとドライだけど、ジャーナリズム的な視点も必要になってくるんじゃないかなと思う。
今の段階では「いい話」として受け取ってるけど、もう少し時間をかけて見る視点も大事かなって。
柴田:2つ目は?
榊原:「ご「超」寿社会に都市はどう変わる?」。僕も関わっているけど、パナソニックに「こんなのどうですか?」っていう提案をしてるんだけど、あれすごく楽しかったし、面白かった。

記事02:ご「超」寿社会に都市はどう変わる?
それに関連して、感情環境デザイナーの方に設計を見てもらった「架空の設計シリーズ」。あれもすごく良かったなって思ってて。やっぱりああいう視点って、『ことととぶき』の活動にとってすごく大事なものだと思う。
もう少し、ああいう記事をパッと見て伝わるように、バーンと見せられる形で出せれば、『ことととぶき』の存在感というか、メディアとしての力ももっと強くなる気がしてる。
柴田:あの企画は、私の「設計者としてのポテンシャル」を、最大限に活かせたなっていう実感はある。

記事21:教えて!感情環境デザイナーさん——設計見てもらえませんか?その1
榊原:やっぱり「インプットだけじゃなくて、ちゃんとアウトプットも見せていく」っていうのが、今後ますます大事になってくるなって思ってる。
柴田:そうだねー。「架空の設計シリーズ」は、今後も引き続きやっていきたいなと思ってる。
榊原:それと同じくらい、最近いいなと思ってるのが「ここに注目」シリーズ。これが3つ目。短くて、一枚の絵で、気軽に読めるじゃないですか。あれぐらいの分量って、すごくちょうどよくて。ああいう、大事なことを伝えている「ゆるいパッケージ」の企画っていうのは、重要だと思う。

記事13:身近なものが介護用品に変わる!!?
柴田:ここに注目に投稿してくれた人たちは、現場で日々介護に向き合ってる人たちなんだよね。経営者の方もいれば、職員の方もいて。そういう人たちが、「いや、設計がどうとか関係なく、ここにポスト必要なんですよ!」みたいなことを当然と言ってくれる。もう現場で勝手に生まれてきた発見で。ほんと、学ぶこと多いなって思ってる。
榊原:だからこそ、「ここに注目」みたいな気軽なサイズ感で、たとえば柴田さんが「ちょっと勝手に設計してみた」みたいなノリのやつがあると、すごく良いなって。
柴田:確かに、設計した内容を、がっつり解説する記事って、正直すごく難しくて、ちゃんと読もうと思ったら、相当な覚悟が必要だね。読み手にも負担かかっちゃうしね。
榊原:だからそれよりも、「あ、なんかこの空間気持ちよさそうだな」とか、「この窓辺いいな」って直感で感じてもらえるものが、やっぱり今は求められてるのかなって。「ここに注目」をベースにして、ちょっと絵の数を増やしたり、ほんの少しだけ情報量を足したりして、肩の力が抜けたくらいのちょうどいい企画にしていけたらいいなって思ってる。
柴田:実際、あの「架空の設計シリーズ」は、設計者の人たちにはよく読まれてるみたい。とても勉強になりましたというコメントを何人かいただいている。
榊原:それと、法改正の解説の記事は、あれはやっぱりこれからも続けていった方がいいんじゃないかなって、最近思ってる。高齢者施設を取り巻く法制度の話って、気になってる人が多いと思うんだよね。現場の人たちも、「これ、変わったらどうなるの?」とか「これってうちにも影響あるのかな?」って気にしてるし、ちゃんとわかりやすく解説してくれる情報って、実はそんなに多くないから。

記事09:法改正で施設はどう変わる?—介護報酬改定を高山善文さんに聞く
柴田:そうだね。
榊原:それと、さっき話してたような「架空の設計の記事」とか、「リサーチャーが出てくるシリーズ」なんかも、あれもすごく大事。リサーチの視点から施設とか地域を見てる話って、読み物としても面白いし、視野が広がるし、すごく意味があるなって。だから今後も、「法制度の話」「架空の設計の記事」「リサーチャーシリーズ」みたいな柱は、しっかり継続してやっていけるといいなって思います。
福祉建築プロジェクトの今後
榊原:最近の流れをちょっと違う角度から見ると、「市民や関係者と一緒に施設を設計する」っていうプロポーザルの動きが活発になったのは、感覚的には2012年からの第二次安倍政権以降だったと思う。その後政権が変わって、勢い自体は少し落ち着いてきた気がするけど、割合としてはプロポーザルで公共施設の設計者を選ぶケースはむしろ増えてる。昔は入札が主流だったけど、今は金額ベースでもプロポーザルが多くなっていて、2021年の調査ではその傾向がデータではっきり出てきた。
ただ、最近は新しく建てるよりも、既存施設をどう活用・改修していくかって方向にシフトしてるから、「◯◯のプロポーザルで設計者が決定!」みたいな派手な話題は減っていくかもしれない。でも、それは表面的な話で、プロポーザル自体はこれからも続くだろうし、内容を見ても、その選定の基準として「市民が施設の運営にも関わり続けられるようにされているか」っていう提案内容が求められていく気がする。
たとえば公園だと、地域の市民団体と施工前から関わってもらうことで、完成後にそのままスムーズに使われていく。これまでは市民参加って言っても、設計の一部としての関わりだったけど、これからは運営も含めて、市民と一緒に設計者が場づくりしていくっていうスタイルが増えていくんじゃないかな。

一方で、『ことととぶき』が取り上げる高齢者施設って、100%「公共」っていう形では存在しないので、今伝えたような公共施設とはちょっと違う文脈にはなるかな。
柴田:うん、補助金は入ってるけど、いわゆる「公共施設」ではないよね。
榊原:そうそう。だいたい民間の事業者が運営してて、そこに補助金が入るっていう形。いわゆる官民連携の形が多いんじゃないかな。病院ともまたちょっと違うしね。
柴田:うん、そうだね。
榊原:もしかしたら今後、高齢者施設のほうでも、補助金が入ることによって「地域の人たちとのコミュニケーション」が求められる場面って増えてくるかもなって、ちょっと思ってるんだよね。
柴田:まあ、基本的に高齢者施設を運営してる事業者さんって、周りの人たちとの協力とか、関わりを得たいっていう気持ちはすごく持ってるしね。なので、施設の近隣の人が近づいてこれるような施設設計っていうのが割と最近増えてる。それと、まあよろしくお願いしますねっていう形でコミュニケーションをとってるっていうのは、よくある。
高齢者施設は基本的に人手不足なので、その地域の人にぜひ働いてほしいという望みもあるし。どうするかというと、最近の大型施設だと、敷地内にカフェを作って、そこに来る人たちにあの、働きませんかみたいな声をかける。日中に、カフェに来てるってことは、仕事をしていない可能性が高い。最近、敷地内にカフェを作るっていうのは、よく聞くようになったね。
今後のこととぶきを考える
柴田:私はけっこう流れに任せてて、興味が湧いたら飛びつくタイプ。出会いや偶然を大事にしてて、注目されてるプロジェクトをわざわざ追うことはしてなくて、たまたま講演を聞いたとか、クラブハウスで面白い人がいたから行ってみた、みたいな感じで動いてる。まあ、そんな感じかな。

榊原:なるほど。編集長としては、やっぱり「デザインリサーチ」って言うか、もう少し「リサーチメディアです」ってところを強く打ち出してもいいのかなと思ってる。ここに来れば、答えというより思考のヒントや活用できるアイディアがありますよ、っていうスタンス。これまで4年やってきたことを振り返りながら、自分たちの価値を再確認して、そこを言語化して精度を上げる。そういう方向でもいいのかなと。軸足としては、やっぱり思考の方ね。で、結果として建築がある。「ことととぶき」が扱うテーマをもっと専門的に寄せるのもアリだと思うけど、柴田さんはどう考えてる?
柴田:今でも十分専門的だと思ってる。他の福祉系メディアと比べても、内容には学びがあるようにしてるつもり。「いい話」で終わらず、「こういう努力があるんだ」と思ってもらえるようにしてる。
榊原:それなら現状の方向性でいいかも。ただ、柴田さんが編集長的にレビューする機会がもっとあってもいいのかもと思った。
柴田:うん。でも私が入り込みすぎると、内容が難しくなりがちで…。そこを榊原さんがバランス取ってくれてるのは助かってる。
榊原:そうだね。強い思いがある分、前提が共有されてる前提で書いちゃって、読者が置いてけぼりになることもあるからね。
柴田:そこは気をつけていきたいね。
榊原:今って記事の数も増えてきて、全部を読むというよりも、「自分が気になるところだけを読む」っていう読み方に移行してきてる感じがあるからこそ、そういう前提の部分をちゃんと丁寧に書くっていうのは、やっぱり必要なんだなって思うよね。
ことととぶき運営の課題
柴田:なんかもっといっぱい人を巻き込みたい。
榊原:本当にそうだと思う。
柴田:声かければ協力してくれる人はいるけど、もっと他のメンバーが積極的に議論に関われるような状況とか、気軽に参加できる場所をどうつくるかっていうのが課題かな。みんな忙しいってのもあるし、今ある記事の内容だけじゃ入りづらい人もいるんだと思う。だから、「このコーナーやらせてください」って言われるような、もっとラフに関われる場があったらいいなって。建築に限らず、日々の気づきとかを気軽にアウトプットできる場所があるといいと思ってて。
榊原:全く異論ないです。
柴田:noteって、長文も書けるし、つぶやきみたいな短文も投稿できるから、もっと多角的に情報を発信するのに向いてる気がする。
「ここに注目」シリーズも、今のところはこっちから声をかけて、ようやく投稿が集まるような状態。
それから、「介護職が欲しいと思う休憩を大調査!!」のアンケートも、なかなか回答が集まらなくて、あと150件くらい欲しい。
これもnoteを使って、今までと違う読者層にアプローチできたらいいなと思ってる。
noteにはコメント機能もあるから、もう少し読者の声を聞いたりしながら、多角的に参加してもらえる場にできたらいいね。

記事20:介護職が欲しいと思う休憩を大調査!!
さて、初めての公開編集会議、いかがでしたでしょうか。
私たちは、取材やプロジェクトを通じて生まれるご縁を大切にしながら、日々試行錯誤を重ねて発信を続けています。こうして読んでいただいていることも、何かのご縁だと感じています。
ご意見やご感想はもちろん、「こんな介護空間が面白かったよ」といった情報なども、いつでもお待ちしています。
今後とも、「ことととぶき」をどうぞよろしくお願いいたします。