IDEA

特養の防災アップデート—「避難弱者」を守る

Writer:Yuko Shibata

以前「ことととぶき」でもご紹介した、長与駅に誕生した地域拠点カフェ「GOOOOOOOD STATION」。このカフェを運営する社会福祉法人「ながよ光彩会」が手がける特別養護老人ホーム「かがやき」では、介護の現場で培った知見を活かし、防災に関するさまざまな工夫が施されています。今回は、その具体的な取り組みを紹介してもらいました。

留まる避難という選択肢

私たちのユニット型特別養護老人ホーム「かがやき」では、階段やエレベーターによる避難が難しい入居者の実情に配慮し、各階に「避難シェルター」を設けています。足腰が弱い方や寝たきりの方でも、ベッドや車椅子のまま移動できる広さと環境を確保し、安全かつ安心して救助を待てる空間として設計しました。

これは、緊急時にすぐに「逃げる避難」が難しい方々に対し、「留まる避難」という新たな選択肢を用意する取り組みです。避難が困難な状況でも安心して過ごせる場所があることは、入居者の命を守るだけでなく、心の安定にもつながります。

介護の現場を深く理解しているからこそ生まれたこの避難シェルターは、非常時においても日常と変わらないケアを提供するという、私たちの姿勢を象徴する空間です。
(投稿者:貞松徹)

特別養護老人ホーム「かがやき」の避難シェルターの詳細はこちら
➡️➡️➡️特別養護老人ホーム「かがやき」HP

〜編集部より〜
特別養護老人ホームには、要介護度が高く、自力での避難が難しい方が多く入居しています。そのため、建築基準法に基づき、一定規模以上の特殊建築物に義務付けられている「二方向避難階段」(複数方向への避難経路を確保するための階段)に加え、多くの施設では「バルコニー」を避難経路の一部として整備しています。これらのバルコニーには、車椅子利用者でも安全に避難できるよう、十分な幅や回転スペースの確保が求められます。

しかし実際には、階段を一人で降りることができない方や、場合によってはベッドから身動きが取れない方も少なくありません。そうした入居者にとっては、「迅速な避難」そのものが困難であり、安全な場所で救助を待機できる環境の整備が、これまで以上に重要な課題となっています。

本施設では、法令で求められる最低限の避難設備にとどまらず、入居者が抱える避難上の困難に真正面から向き合い、独自に「避難シェルター」を設置しました。また、法的に定められた数を上回る避難階段も計画的に整備。階段の昇降に時間がかかる高齢者が多い中で、階段の数に余裕がなければ避難時に渋滞が生じるリスクがあるため、こうした配慮は非常に重要です。

設置された避難シェルターは、多人数が同時に安全に待機できるスペースであると同時に、平常時には多目的に活用できるよう設計されています。

これらの取り組みは、介護現場への深い理解をもつ事業者だからこそ実現できたものです。災害時においても入居者の命と安心を守る、先進的かつ実践的な備えの一例として注目されます。

貞松徹Toru Sadamatsu

社会福祉法人ながよ光彩会 理事長 / NPO法人Ubdobe 理事
1978年生まれ。長崎県出身。 2000年に理学療法士になったが、2005年に日本を飛び出しバックパッカーへ。 帰国後、JICA(国際協力機構)や経済産業省との医療福祉に関わるプロジェクトにおいて、医療ツーリズム、リハビリテーションツーリズムを中心とした海外のプロジェクトマネージャーを務めるなど、幅広い経験を持つ。 2013年に地元長崎にUターンした後、2014年社会福祉法人ながよ光彩会の設立に携わり理事に就任(現在、理事長)。 2020年公益事業拠点として、みんなのまなびば み館を開設。多文化環境での生活経験から、ダイバーシティマネジメントをベースに、正しさを固定化させないことをテーマとした、福祉事業のデザインや、地元自治体との様々なイベントの企画運営を担当。 2023年度より就労継続支援事業所を開設し、地元事業者と共に端材、廃材を用いたアップサイクル商品のプロダクト開発を製作。 同年9月より公共交通×福祉の新たなプロジェクト「GOOOOOOOD STATION」を始動。