RESEARCH

【前編】高齢者福祉施設が、駅でカフェを始めた理由とは?
——社会福祉法人ながよ光彩会  貞松徹インタビュー

Interviewee : Toru Sadamatsu Interviewer : Yuko Shibata Interviewer&Writer : Akiko Yamaguchi Main Image Photographer : Kyosuke Mori

駅員の人員確保難や鉄道利用者減の影響を受け、全国的に無人駅が増加しています。国土交通省のデータによると、全国の無人駅は4564駅と全体の約半数[※1]、JR九州に至っては約6割[※2]にも及びます。

ことととぶきの記事「無人駅に作られた、地域の拠点カフェ——長崎県長与駅内「GOOOOOOOD STATION」でも紹介した社会福祉法人ながよ光彩会の所在地は、長崎市のベッドタウンであり高齢化が進む長崎県西彼杵郡長与町。町で最も乗車人数が多い長与駅も(1日の乗車人数1,591人)、2020年3月から時間指定の無人駅(午後から駅員不在)となりました。

おりしも、2021年に障害者差別解消法が改正され、民間事業者も障がいのある方への「合理的配慮の提供[※3]」が義務化。駅においても、負担が重すぎない範囲での配慮が求められており、これは高齢者の暮らしやすさにもつながる法改正ともいえます(施行は2024年4月から)が、無人駅でそれを実現するのは容易なことではありません。

ながよ光彩会が長与駅構内でカフェ兼ショップ「GOOOOOOOD STATION」を運営しながら駅業務の一部を担い始めた背景には、実はそういう状況がありました。その経緯や想いについて、社会福祉法人ながよ光彩会の理事長・貞松徹さんに詳しく伺いました。

行動力あふれるリーダーによる発想や取り組みは非常にユニークで、高齢化が進む人口4万人弱のまちでも安心して暮らす知恵や工夫が詰まっていました。

[※1]国土交通省(令和4年7月)「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する ガイドライン」より。全国の無人駅数4564駅は、2019年度のデータ
[※2]2023年1月20日 読売新聞より
[※3]合理的配慮とは、障がいのある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としていると意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応が求められるもの。

この記事は『無人駅に作られた、地域の拠点カフェ——長崎県長与駅内 GOOOOOOOD STATION』と合わせてお読みください。

日常的に福祉を感じられるまちづくり

――まず、ながよ光彩会の事業内容について教えてください。


私たち社会福祉法人ながよ光彩会は、2015年から特別養護老人ホーム「かがやき」を、2020年からは地域公益事業として「みんなのまなびば み館(以下 み館)」というだれでも先生にも生徒にもなれるオープンスペースを運営しています。2023年からは就労継続⽀援B型事業所「GOOOOD KAGAYAKI(以下 グッドカガヤキ)」もスタートさせました。

み館は公立小学校の目の前にあり、建物の2階以上はグループホームとなっています。このプロジェクトは、前理事長の時にスタートした事業です。

み館は、私が以前から考えていた「福祉施設とまちが日常的に交流する場」を具現化したものです。うちはイベント会社ではないし、外注するほど予算がつけられないので、職員や入居者がもつ悩みや得意なことに寄り添うイベントをまちに開きながら運営しています。職員には外国籍やLGBTQ当事者、さらに単身、片親、三世代同居などさまざまな世帯の職員がおり、当事者意識から生まれたイベントを開くことが、結果的にまちの多様な人に親しまれることにつながりました。小学校の前という立地だけでなく、マンガやハンモック、お手伝いポイントなど子どもたちを歓迎する仕組みを整えたので、気軽に利用する子どもたちが多くいます。

福祉とまちの交流という意味では、日常の延長線上で福祉の知恵や知識を伝えられるよう工夫しており、室内に複数あるテーブルでは福祉のこともそうでないことも同時に行われ、福祉のことが目耳に自然に入るようにしています。また、み館の入り口に敢えて(バリアとなる)2段の段差をつくりました。はじめてみ館を利用する際には「み館の使い方きょうしつ」を受けてもらい、その中で移動式スロープ設置などを学び、車椅子ユーザーをサポートする体験が必須というルールを定めました。

図1:「ある日の『み館』」作成柴田木綿子建築設計事務所

新事業のきっかけは、まちの声と法改正

――なぜ、社会福祉法人が公共交通の役割の一部を担うことになったのか教えてください。


み館に訪れた人たちと話すと、まちの困りごともわかってきます。そのなかに、長与駅が昼過ぎから無人駅になり「電光掲示板が消えて不便」「切符の買い方がわからない」といった声がポツポツ挙がってきていました。切符の問題については、高齢男性の声で券売機が新500円玉に対応できてないことが原因でした。

長与駅は、1番のりばと2番のりばの行き先が時刻によって変わります。当時は電光掲示板が消えている日もあり、間違える人が珍しくはありませんでした。

そうこうしていると、2022年7月に国土交通省から無人駅運営のガイドライン[※4]が発表され、読んでみると“自治体や地元企業等との連携、委託を通じた駅運営も有効な取組”と書かれていました。大きな発見をした思いでした。


――地元企業でも駅の運営ができることは驚きです。どうやって実現していきましたか。


ちょうど、JR九州が「九州 DREAM STATION」というスタートアップサポート事業でパートナー企業等[※5]を募集していました。

私たちは、駅の改札前にあるコミュニティーホール内で「GOOOOOOOD STATION(以下 グッドステーション)」を運営しながら、高齢者福祉事業の知見を生かした駅業務のサポートを提案しました。

無事採択されましたが、これは、JR九州との簡易委託契約の締結というわけではありません。そして、長与駅コミュニティホールでは、「営利目的での事業を禁止する」という運用規則がありました(管理運営費や工賃に関わる費用を受け取ることは可能)。

改札前にある町のコミュニティーホール。駅の待合機能を担保しつつ、カフェやショップ機能を持つ複合施設を運営しています。ショップに並ぶのは、グッドカガヤキのメンバーがつくった商品や町外の障がい者施設の方が作った商品など。

[※4] 国土交通省(令和4年7月)「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関するガイドライン」より。
[※5]一般事業者が駅にある遊休スペースを使い、地域活性をめざすパートナー

先進的な取組を、長期的な事業にするために

――コミュニティスペース内のカフェ事業ではマネタイズできないとのことですが、運営を継続する仕組みはどう構築していきましたか。


駅にいながら収益を出す方法を、一つひとつ考えていきました。実は長与駅は改札内はJR九州、改札外は長与町というように管轄が2つに分かれており、それぞれで収益を得る方法を模索しました。改札内については、我々が福祉のプロフェショナルということを改めてJR九州にお伝えし、乗降介助業務をはじめ改集札業務・案内業務・清掃業務を受託できました。

私たちがいつも駅にいることで、前日までに要予約だった乗降介助が、当日であっても対応可能になりました。また、JR九州にとっては、グループ外の民間企業で初めての業務委託です。

平日夕方の改札の様子

――長与町が管轄する改札外エリアで、受注している業務委託はありますか。


長与町がシルバー人材センターに発注していた駅の清掃業務を、うちに委託してもらっています。元々うちには清掃業務の実績がなかったので、(いきなり清掃業務を委託してもらうことは難しいと感じ)JR九州の方と役場に行き、「3者で九州 DREAM STATIONの協働事業をしませんか」と町を巻き込んだ駅のにぎわいづくりを提案しました。

で、シルバー人材センターで清掃を担当されていた方にながよ光彩会からその業務を発注し、グッドカガヤキのメンバーがシルバーの方々に教えてもらいながら、ソフトランディングしています。となりの高田駅(長与町)も担当し、今は完全にグッドカガヤキのメンバーが掃除業務を担っています。

図2:「長与駅の掃除業務に関する委託先の推移」作成柴田木綿子建築設計事務所

今回は、グッドステーションの成り立ちについて詳しくお話を伺いました。次回は、グッドステーションを拠点とし、さらに広がりを見せる活動についてお伝えします。どうぞお楽しみに。

貞松徹Toru Sadamatsu

社会福祉法人ながよ光彩会 理事長 / NPO法人Ubdobe 理事
1978年生まれ。長崎県出身。 2000年に理学療法士になったが、2005年に日本を飛び出しバックパッカーへ。 帰国後、JICA(国際協力機構)や経済産業省との医療福祉に関わるプロジェクトにおいて、医療ツーリズム、リハビリテーションツーリズムを中心とした海外のプロジェクトマネージャーを務めるなど、幅広い経験を持つ。 2013年に地元長崎にUターンした後、2014年社会福祉法人ながよ光彩会の設立に携わり理事に就任(現在、理事長)。 2020年公益事業拠点として、みんなのまなびば み館を開設。多文化環境での生活経験から、ダイバーシティマネジメントをベースに、正しさを固定化させないことをテーマとした、福祉事業のデザインや、地元自治体との様々なイベントの企画運営を担当。 2023年度より就労継続支援事業所を開設し、地元事業者と共に端材、廃材を用いたアップサイクル商品のプロダクト開発を製作。 同年9月より公共交通×福祉の新たなプロジェクト「GOOOOOOOD STATION」を始動。

柴田木綿子Yuko Shibata

建築家/合同会社柴田木綿子建築設計事務所代表、ことととぶき発行人
1979年滋賀県生まれ。京都精華大学芸術学部建築分野卒業。吉村靖孝建築設計事務所を経てしばたゆうこ事務所設立。建築設計にとどまらず、デザイン監修、共同研究なども請け負う。吉村靖孝建築設計事務所在籍時にシニア向け分譲マンション 「ソレイユプロジェクト」の設計を担当。独立後の養護老人ホーム設計などを経て、高齢者施設抱える様々な問題に触れる。INSIDE FESTIVAL 2011 residential 部門 2nd、Design For ASIA 2011 Merit Recording受賞。高齢者施設の設計に関わる環境を改善するため、ことととぶきを発行。

山口あきこAkiko Yamaguchi

コピーライター・日本語教師 / 建築、美容、食品、教育、工業など多様な業種のクライアントとともに広告の企画制作やインタビュー記事の制作、新施設立ち上げなどに携わる。特に、団地や公園に関わるコピーライティングを通じて、共用空間や公共空間に対して一人ひとりがもつ権利や振る舞い、クリエイティビティの引き出し方などに興味をもつ。受賞歴に毎日広告デザイン賞 最高賞、2020 年グッドデザイン賞、2023 年グッドデザイン賞などがある。Podcast 番組「みんなが心地いい社会って、なんだろう」を企画・運営している。