RESEARCH
【後編】高齢者福祉施設が、駅でカフェを始めた理由とは?
——社会福祉法人ながよ光彩会 貞松徹インタビュー
Interviewee : Toru Sadamatsu Interviewer : Yuko Shibata Interviewer&Writer : Akiko Yamaguchi Image Photographer : Kyosuke Mori
前回の記事では、長崎県長与駅内 GOOOOOOOD STATION(以下 グッドステーション)の成り立ちについて、運営する社会福祉法人ながよ光彩会の理事長・貞松徹さんに詳しくお話を伺いました。今回は、グッドステーションを拠点とし、さらに広がりを見せる彼らの活動と貞松さんの考える高齢化社会の変革についてお話しを伺いました。
この記事は『無人駅に作られた、地域の拠点カフェ——長崎県長与駅内 GOOOOOOOD STATION』、『【前編】高齢者福祉施設が、駅でカフェを始めた理由とは?——社会福祉法人ながよ光彩会 貞松徹インタビュー』と合わせてお読みください。
多世代を受け入れる「み館」の活動が、新しい活動を後押しした
――長与町が管轄する長与駅や隣駅の清掃業務の委託先がながよ光彩会に変わったんですね。反対運動はありませんでしたか。
先ほどご紹介したみ館には、多様な人がふらっと訪れて困りごとを話してくれます。それで、長与町役場の介護保険課だけでなく他部署の方や町長も訪ねてきてくれるようになっていました。
長与町が5年に一度リリースする町勢要覧では「長与のリビング」という記事で、長崎県には公益事業モデルとして紹介されていて、ポジティブに受け入れてくれていた人は多いと思います。
パブリックな場から、ケアの知恵や知識を広める
――駅という身近な場に、ケアの専門家がいることで安心する人は多いと思います。
実は、グッドステーションにはケアの専門家(理学療法士)は2人。だから、カフェスタッフやまちの人にケアの視点を伝える活動も行っています。
ユニバーサルアクションプログラムといって、車椅子ユーザー、視覚障がい者、聴覚障がい者、そして高齢者が駅で何に困っていて、どんな助けがほしいかを理学療法士や障がい者が先生になって、考え・学び・実践するものです。実習を受けたカフェスタッフは、すでに乗降介助業務を担っています。
み館でも、日常の延長線上で福祉の知恵や知識を伝えていたので、それがより公共的な場に広がった感じですね。
ユニバーサルアクションプログラム、JRからも協力を得て、長与駅で40分停車する車両で実践している。
――まちの人同士でも、乗降介助やサポートができるようになりますね。
特に、白杖の方の転落事故は花火大会のようなイベントや車両減少など通常はあるはずの車両がないときに多いです。だから、ポイントを押さえるだけで、だれもが命を守るお手伝いができます。
また、行き先ごとに障がいのある人とない人のマッチングができれば、どんな駅でも乗降介助ができるようになりますね。
駅周辺に不足していた役割を
――グッドステーションができたことによる、意外なメリットはありましたか。
福祉視点を持つグッドステーションのスタッフが駅業務を担っているからこそ、認知症等の傾向がありそうだなと気づけたケースがありました。都城市(宮崎県)から来られた方だったのですが、スタッフが声をかけ、社会福祉協議会におつなぎすることで、無事に保護して頂くことにつながりました。駅で気になる人がいたら、なるべく声をかけるようにしていますね。
――他にも、どんな機能を果たしていますか。
待ち時間に勉強する子がいたり、塾帰りにお迎えを待つ子もいます。駅の待合室の機能を維持しながら、まちの大人によるアンサンブルコンサートのサポートも行いました。
長与町は自己表現できる場があまりないので、使われ方がわかってくるといろいろ相談しにくる人は多いですね。
図1:「まちの人の声」作成柴田木綿子建築設計事務所
まちの人は、グッドステーションのことを好意的に受け止めている。
駅にあまり来ない人もしあわせになる未来づくり
――今後の展望をお教えいただけますか。
いま、グッドステーションに並ぶ商品は、主に障がい者の方(就労継続支援B型)がつくったモノです。今後は、特別養護老人ホームの入所者たちが生産活動で対価を得る仕組みを構想しています。たとえば、料理や裁縫、歴史など入居者がこれまでの人生で得た経験や得意なことを商品にするというような。県がそれを認めて実現できれば、全国的なモデルになり得ると思います。
図2:「介護事業所のしくみ」作成柴田木綿子建築設計事務所
介護保険サービス(通所型サービス)の利用者が社会参加活動を通じて、有償ボランティアとして謝礼をもらうことは認められている。
考えるきっかけとなったのは、お年玉です。うちには、訪問した孫たちに「お年玉ば渡せんくて、ごめんね」と萎縮してしまう入居者がいます。当たり前かもしれませんが、お金があれば好きなモノを食べる、好きな服を買う、お世話になった人にお礼をするなど、だれにも遠慮せずに選択肢を増やすことができます。
できなくなることを極力減らし、最期まで自分らしく生きられるサポートをしたいです。尊厳を守ることは、ケアの大きな役目ですから。
――現場にいるからこそ生まれる発想ですね。では、これからどんな駅にしていきたいですか。
長与駅は乗り遅れそうな人をすこし待ってくれる懐の深さがあります。そんなふうに、コーヒーの提供もゆっくり待てるような文化をつくりたいです。
私は待つことを許容できることが、高齢者やそれ以外の人たちと「困ったことを助けあい、得意なことをいかしあう」流れを生み出せると、強く信じています。
画像:得意を伸ばして、いかしあう GOOOOOOOD サイトより
(https://goooooood.jp/enjoy/)
長与駅では、定刻になるとエプロン姿のカフェスタッフが改札で待っています。それは、まるでさっきまで台所で料理していた人が迎えているようで、プライベートとパブリックが混ざり合うようなあたたかさを感じました。
思い出すのは、黄色い旗を持って通学路に立つ地域の大人(長与町では今も行っている)。毎日おなじ場所に立って見守り続けることは、かつては子どもを守る意味合いが強かったシステム。ですが、高齢化が進んだまちではお年寄りを守る意味でも機能的です。
グッドステーションは既存のシステム、場所(駅)、スキル(高齢者福祉施設)といった昭和から当たり前にあるものの掛け合わせで、高齢者を含めた町民を相互に守りあう仕組みをつくりあげています。それは人口が減りつつある町でも非常に有効であり、巨額の投資なしでも実現できることではないでしょうか。
同時に、ゆったりとした時間をまとった駅スタッフが、ただただそばにいるというのは全国的にみても、かなり貴重なことだと感じました。