RESEARCH

ネームシールに秘められた配膳記号

Researcher&Writer:Yuko Shibata

配膳を手助けするサイン

高齢者施設に入ると、デザイナーではなく職員が工夫を凝らして作り出したデザインを目にすることが少なくありません。それは高齢者が認知しやすいように、または職員たちの介護の補助のために作られたもので、それを紐解いていくと介護の現場で何が起きているか、そして何を必要としているかを考える手がかりとなります。

調査した施設は特別養護ホーム・養護老人ホームからなる複合施設。この施設の食堂は特別養護老人ホームの一部の利用者を除き、200名ほどが利用する大きなスペースとなっていました。介護重度と必要とする介護の種類が違う利用者が入り乱れる大きな食堂では、食事を間違いなく配膳するための工夫がテーブルにも施されていました。

テーブルに貼られたネームシールは、ただ座席を知らせるものではありません。名前の隣にある絵文字はここに座る利用者の食事の特徴を介護職員に確認させるためのものでした。

老人ホーム等で提供される食事は普通食に加え、咀嚼能力や嚥下能力に合わせたミキサー食やきざみ食などの介護食・糖尿病や腎臓病などに対応した治療食など多岐に渡ります。

左の鍋マークは食事の柔らかさを示すマークで、ここでは「ソフト食」を示しています。
右のスプーンマークは塩を示しており、「減塩食」を表しています。種類が違う食事は盛られる食器も違い、視覚的にわかりやすくなっています。厨房から配膳される際、食事の種類と形態をチェックをされながらトレーに乗せられた食事は、このテーブルに置かれることでシールによって再チェックされ、間違いを未然に防ぐ仕掛けになっています。

柴田木綿子Yuko Shibata

建築家/しばたゆうこ事務所代表、ことととぶき発行人
1979年滋賀県生まれ。京都精華大学芸術学部建築分野卒業。吉村靖孝建築設計事務所を経てしばたゆうこ事務所設立。建築設計にとどまらず、デザイン監修、共同研究なども請け負う。吉村靖孝建築設計事務所在籍時にシニア向け分譲マンション 「ソレイユプロジェクト」の設計を担当。独立後の養護老人ホーム設計などを経て、高齢者施設抱える様々な問題に触れる。INSIDE FESTIVAL 2011 residential 部門 2nd、Design For ASIA 2011 Merit Recording受賞。高齢者施設の設計に関わる環境を改善するため、ことととぶきを発行。