IDEA

教えて!感情環境デザイナーさん
——設計見てもらえませんか?その2:デザインレビュー前半

Interviewee:Satoe Sugimoto Interviewer&Writer:Yuko Shibata Design:Yuko Shibata Architects

前回の記事では、感情環境デザイナーの杉本さんと抽出した、スタッフステーションの設計与件と、それを前提としてしばたゆうこ事務所が検討した設計案5案を簡単に紹介しました。今回は杉本さんを聞き手として、案を詳細に説明しつつ、そして案を土台に、改善のための検証を二人で話し合います。

前回のおさらい「スタッフステーションの設計与件」
・簡単な介護の記録をするためのスペース
・薬の管理場所とセットする作業スペース
・申し送りのノート置き場
・ささっと片付けれる仕組み
・情報共有できる仕組み(連絡ボード等)
・介護される側、する側を分断しない雰囲気
・利用者も手伝いやすい仕組み

このスタッフステーションはユニット型特別養護老人ホーム[※1]の1ユニットに設置することを想定しています。

[※1]ユニット型特別養護老人ホームとは、定員15人以下を1ユニットとした個室ユニット型施設です。

その1「バードハウス型 スタッフステーション」

柴田:これは、鳥小屋のように穴から出たり入ったりといった、忙しい介護業務の流れるような動きを遮らずにサポートする、倉庫兼用のスタッフステーションです。

入口にも収納にも扉はありませんが、入り組んだ形なので、外側からは収納は見えにくくなっています。利点としては、収納に扉がないため、一度に沢山の備品の位置を目視でき、業務を簡略化できます。

「バードハウス型スタッフステーション」の内側

スタッフが、利用者と話しながら作業するという場面を想定して、コンシェルジュテーブル横に、ソファを備えました。利用者の居場所を少し取り込むことで、スタッフステーションが、両者のためのものだと感じられるように配慮しています。

「バードハウス型スタッフステーション」のリビング側

作業用ハイカウンターは、入口部分で、共同生活室にいる利用者を見守りながら、立ったままの簡単なPC入力ができます。入口付近には、共同生活室でよく使う物品(申し送りノートや血圧計など)を収納する棚があります。

杉本:収納の作り方がとても良いと思います。扉の開け閉めだけで、2アクションあるのが不要になりますね。また、開口部がアーチになっていて、利用者から見える部分とそうでない部分のデザインのメリハリがあって良いと思います。ただ、薬のストック収納の容量が不足しているので、増やしてほしいです。薬のセットは夜勤などの時間に、落ち着いてやることが多いので、この案の場合、コンシェルジュテーブルですることになると思います。

柴田:ではコンシェルジュテーブル近くに薬のストックがある方が良いということですね?

杉本:そうですね。あとは、コンシェルジュコーナーはとても面白いと思うのですが、気になるのはそのテーブルとソファの配置です。高齢者の身体機能は左右非対称なことがあり、左耳が聞こえやすい、体のどちらかが麻痺しているといった時に、机の両側にソファがある方が、そういった人たちにも使いやすくて良いと思います。夜、部屋で寝付けない利用者が、ソファで寝ようとすることもあるので、リクライニング機能があると尚よいですね。

柴田:例えば、このソファ部分で体を横にするといった案はどうでしょうか?執務している スタッフの横顔に向き合うような座り方になります。

コンシェルジュコーナーのソファの向きの改善案
(コンシェルジュコーナーのパース)

杉本:そうなると逆に互いの距離が少し遠くなり、聞こえにくいということが起きそうですね。あとは効き耳の問題はこれでは解決しないと思います。

この作業用ハイカウンターは、利用者を見守りしながら、ちょっとした入力ができるという点で、現実的にかなり需要があるものです。さらに、腰を据えて作業できるという、2種類の作業場があることもあって、この案は本当にいろんな現場の要求を満たしていると思います。

その2「みんなで協力 P字キッチンステーション」

柴田:これは、今回の企画の主題のひとつである「綺麗に保つ」を介護者だけでなく、利用者も協力して実現するということを目標にしている案です。利用者の生活リハビリがしやすいように、キッチン周りのスペースをP字にし、作業スペースの間口を広く確保し、混み合うことなく作業や生活リハビリができるように工夫しています。

食器棚前にあるワンクッションカウンターは食器やトレーを一旦カウンターに置き、片手でも作業できるようになっています。開いた電子レンジの扉や食器棚の扉と干渉しないように、一段下げた高さに設置しています。サイドカウンターは座位でキッチン周りの生活リハビリなどをすることを想定しており、高さはテーブルと同じ70cmです。ここの短手側に食器洗浄機を設置し、調理や食器洗いをする人と干渉しないようにしています。

「みんなで協力 P字キッチンステーション」のリビング側

スタッフスペースは冷蔵庫横にある、小さな空間。介護業務に必要なものを収納しつつ、小さな執務スペースを確保しています。執務スペースでは薬のセット作業を想定していて、目の前の開口部に薬をセットすれば、そのまま共同生活室側から取れるようになっています。

「みんなで協力 P字キッチンステーション」のスタッフスペース内側

杉本:生活リハビリを中心に考えられている案なので、その点について言及すると、生活リハビリには「食器の出し入れ」が主にあります。そうした時にその食器棚の中身が見えるように透明な扉で引き戸になっているのは、確認しやすさ、使いやすさの点で重要になります。一方で、スタッフが使う用だったり、見せたくないものを収納する場所は、中が見えないしつらえが良いです。

手伝うという点ではもうひとつは、「食事の盛り付け」があります。置き家具でも良いのですが、配膳のためのスペースがキッチンカウンター以外にも必要です。それは、利用者が座ってでも作業しやすいようにテーブルと同じ高さ、70cm〜75cmの高さが良いです。

柴田:それはサイドカウンターの奥行きを広くすれば、代用できますか?

杉本:そうですね。できれば、それに加えて、キッチンカウンターとサイドカウンターの境界のところに、配膳トレーを乗せる台があると助かります。盛り付けにかなりのスペースが必要なので。あと、この食洗機は利用者のリハビリとしては使いやすい位置にありますが、職員がシンクから食器を食洗機に移動すると考えると、少し遠く、使いにくいものとなってしまいます。

柴田:だとしたら、シンクの隣のこちらだといかがでしょうか?

キッチンカウンターの食洗機の位置の改善案
(キッチンカウンター部分の平面図)

杉本:それだと問題なさそうですね。

ワンクッションカウンターはとてもいいですね。よく考えられています。欲しいと思いました。スタッフスペースはかなり小さいですが、小さくてもあるだけでとても助かります。内部の棚は可動棚で収納物のサイズによって、高さが調整できると良いですね。配薬棚は、見えると施設感が出てしまうので、共同生活室側から直接薬が見えないように扉がついていると良いと思います。あとは、この空間のどこかにカートを収納できる場所があるといいですね。個室にいる利用者の血圧を測ったりといった際に、様々なものを一式運んだりできるような2段くらいのカートです。

柴田:カートの件は検討します。ひとつ気になっているのが、今回はキッチンの役割を配膳・温め程度と想定して検討しましたが、施設によっては本格的な調理をするところもありますよね。その場合、この食器棚や電子レンジの位置だとちょっと使いにくいですか?

杉本:確かに調理する前提であれば、キッチンの背面に、収納と電子レンジくらいはあった方がいいですね。仰る通り、共同生活室にあるキッチンで利用者の食事を調理する施設は増えています。

その3「なんでもぽいぽい 隙間ステーション」

柴田:この案は、壁の前にパーティション型家具を置き、壁との間に利用者から死角となるスペースを作り、そこをスタッフ用のスペースにするというものです。必要最低限のものを集約していて、腰を据えてやる執務などは、共同生活室の空いているテーブルなどですることを想定しています。

特徴的なのは配薬棚。薬が見えているということがネガティブなイメージになっていたのを、扉が回転して鮮やかな色の配薬棚が出てくることで、部屋の雰囲気も代わり、薬の時間が楽しくなるように考えました。薬は裏でセットします。

「なんでもぽいぽい 隙間ステーション」のリビング側
画像左:回転式配薬棚が開いている時
画像右:回転式配薬棚が閉じている時

作業用ハイカウンターと配薬棚の間にある穴は、「雑に収納!ぽいぽいカウンター」です。立ち上がりが少しあるので、ぽいっと放り込んでも共同生活室側からは放り込まれた物が見えなくなります。忙しい業務中のちょっとした労力で、共同生活室の風景を美しく保てる工夫です。「誰でもお掃除コーナー」は、掃除機やほうき、雑巾などを備え、利用者が掃除ができるようにと考えました。

この案は5つのうちで一番安価に、尚且つ既存の施設にも導入しやすい案ですね。

杉本:ぽいぽいカウンターはとてもよく考えられていますね。ネーミングもいい(笑)。前面だけでなく、後ろにも少し立ち上がりがあって、落ちにくい工夫がされているのは素晴らしいです。

「誰でもお掃除コーナー」は、小さい掃除機であっても、高齢者が「ひっかける」というのは重量的に難しいと思うので、「立てかける」方が良いと思います。そうすると一番下の段は、ない方がよいですね。

「なんでもぽいぽい 隙間ステーション」の内側

回転式の配薬棚はとても面白いです。利用者さんに配れるように、1つ1つの容器が取れるようになっているとありがたいです。また、薬のストックはかなり多いので、もう少し薬の収納が必要ですね。

あと、ここに簡単なカートを収納できるといいですね。内容としては「その2」で話したのと同様、様々な物品をそのまま持っていけるカートです。ホワイトボードはもう少し書きやすい高さに調整が必要です。ハイカウンターは、ノートPCとノートが置けるくらい、少し広くできるとありがたいです。

今回は、その3までの案の説明と、案の改善点の検証について話し合いました。残りの2案の説明と全ての改善案は別の記事でご紹介します。お楽しみに。

杉本 聡恵Satoe Sugimoto

エンプラス株式会社 代表/感情環境デザイナー/作業療法士/IEE教育環境研究所 客員研究員
1972年 山口県生まれ。広島県育ち。大阪府在住。病院・介護施設での企画・運営を経験した後、作業療法士となる。心身が低迷する方たちの気力を高めるためには、ケア力だけでなく、環境力との掛け合わせによる相乗作用が不可欠だと痛感する。「心が生き続けること」を根幹に据えた医療福祉の環境デザインを考えるエンプラス株式会社を2011年設立。人が行動する最も強い動機である感情が動くことを軸とした、「感情環境デザイン」を軸に介護施設のプランニングなどを手がける。

柴田木綿子Yuko Shibata

建築家/しばたゆうこ事務所代表、合同会社柴田木綿子建築設計事務所代表、ことととぶき発行人
1979年滋賀県生まれ。京都精華大学芸術学部建築分野卒業。吉村靖孝建築設計事務所を経てしばたゆうこ事務所設立。建築設計にとどまらず、デザイン監修、共同研究なども請け負う。吉村靖孝建築設計事務所在籍時にシニア向け分譲マンション 「ソレイユプロジェクト」の設計を担当。独立後の養護老人ホーム設計などを経て、高齢者施設抱える様々な問題に触れる。INSIDE FESTIVAL 2011 residential 部門 2nd、Design For ASIA 2011 Merit Recording受賞。高齢者施設の設計に関わる環境を改善するため、ことととぶきを発行。